絵本の里づくり

きっかけ

絵本の里づくりのきっかけは、昭和63年2月に剣渕商工会青年部が、士別市在住の版画家を講師に主催したまちづくり講演会で、「知り合いの児童図書編集長が北海道に住みたいので家を探している。」とのことから、青年部が「ぜひ剣淵を見てもらいたい。」と申し出て、紹介された福武書店児童図書編集長との出逢いからはじまります。

 

同年3月28日、東京からまだ雪の見られる剣淵町に来町され、町内のあちこちを案内された福武書店の児童図書編集長は、広々とした田園風景や、山と森に囲まれた桜岡湖を見て『この町はヨーロッパの風景と似ていますね。ヨーロッパでは、絵本の原画は芸術品として高く評価され、あちこちのまちに絵本原画の美術館があります。しかし、日本では個人の美術館がわずかに所蔵展示しているだけです。絵画と違って、絵本の原画はページ数分が全てそろって一つの作品です。いろいろな作家の作品を集めて、だれもが見たいときに見ることができる原画美術館が日本にも欲しいと思っているのです。』と話されました。

 

この時の話から絵本原画美術館構想が生まれ、絵本の里づくりの原点となりました。

 

 

けんぶち絵本の里を創ろう会結成

町の活性化を模索していた町民有志が、行動を起こしました。まず、絵本の里づくりを展開するためには、「絵本」について多くの方に話を聞いてもらうことが先決と考え、町公民館の理解を得て、昭和63年5月2日に「すばらしい絵本の世界」と題した講演会(公民館主催)を開催、第2部は「絵本を使ったまちおこし」をテーマにした懇談会で、参加者は80名くらいでしたが、反響は大きいものがありました。

 

同年6月8日、町民有志14名の発起人により「けんぶち絵本の里を創ろう会」の設立総会が開催され、会長に髙橋毅さん、事務局長に肥田久宣さんが選任され、住民活動による新しい地域づくりが始まりました。

 

その当時の大澤町長の話が、ある機関誌に次のように記載されていました。

 

『突然、私の所に農業や商業、勤労青年がきて、“絵本によるまちづくりをやってはどうか”“絵本によるまちおこしをやりたいので協力してほしい”との申し入れがありました。正直言って返答に苦慮しましたが、有為で誠実な青年の申し入れであり、協力を約束しました。ただし、行政が主体となって進めることはしない。行政が主導すると民力が死滅し活力を失うと考えたこと、また、絵本は出版社や絵本画家・作家と密接な関係が必要であり、さらに絵本に対し、それぞれ好みや思いを異にするため、民主導であればそれらの対応が自由にできるからです。』

 

絵本の里を創ろう会では、最初の企画として、同年9月、小池暢子さんとポーランドのクリスティーナ・ヒエロフスカさんによる「国際交流版画二人展」を開催、11月には、町の文化祭に合わせて「手嶋圭三郎絵本原画美術展」、平成元年2月に「北海道絵本の里冬の絵本原画展・シンポジウム」を立て続けに開催。町民を絵本の世界に引き込み、会の自信へとつながりました。また、原画展のほかにも絵本の全戸回覧や読み聞かせ会、町内巡回文庫(25カ所)も始め、押し花絵、布絵などサークル活動へも広がっていきました。

 

写真 サークル活動へも の後へ

 

町では、平成元年度に「ふるさと創生資金(1億円)」の半分を絵本の里づくりに使うことを決め、公民館の改修や絵本1000冊と絵本原画を購入し、この年から会の活動に対して町助成金を交付、翌平成2年度には、絵本原画収蔵館を建設し、平成3年8月1日には、公民館を愛称「絵本の館」としてオープンしました。

 

創ろう会では、かねてから原画展のほかにメインとなる事業を練っていましたが、それが平成3年度から始められた「けんぶち絵本の里大賞」です。これは、前年度1年間に日本で出版された絵本を作家や出版社に応募してもらい、その絵本を絵本の館に展示し、来館者が自分の好きな絵本に投票して大賞を決定するというもので、大賞受賞者(受賞作品)には、賞金50万円(当時100万円)と50万円相当の剣淵の農産物が3年間に分けて贈呈されます。絵本の応募は毎年300冊前後、投票期間は毎年8月と9月の2か月間、絵本原画展と併せて絵本の館で開催されます。絵本の里大賞の授賞式は翌年2月~3月にかけて実施される「絵本まつり」の期間中に、歓迎レセプションと合わせて開催され、作家の方や出版社の方々との交流も行われています。

 

写真 出版社の方々との交流 の後

 

絵本の里づくりの背景には、「障害者支援施設剣渕西原学園」の地域づくりへの参加協力や創ろう会と同じくして結成された「剣淵・マツダとふれあう会」(昭和63年1月17日結成)、更には、絵本の里には人と自然にやさしい農業がよく似合うと、安全な農産物の産直に取り組む「剣淵・生命を育てる大地の会」(平成2年2月1日発足)など住民活動団体の積極的な協力もありました。

 

映画「じんじん」

平成22年6月3日、日本を代表する個性派俳優・大地康雄さんが絵本の館を訪れ、子どもたちが絵本の読み聞かせに瞳を輝かせ、大人たちが優しい眼差しで語りかける姿に心打たれ、絵本の里を創ろう会のメンバーとのふれあいの中から映画「じんじん」のストーリーが生まれました。平成24年8月には剣淵ロケがクランク・アップして、翌年4月から全国各地をスローシネマ方式で好評上映中です。

 

絵本に託した娘への想いを伝えようとする父と、絵本の中に溢れるばかりの愛の深さを知る娘の感動の物語。この映画製作のロケに際してもエキストラや炊き出しの食材提供とボランティア等、協働の精神が一層培われたことも絵本の里づくりの成果となりました。そして、この映画と共に「絵本の里けんぶち」の活動が全国に情報発信され、交流人口の拡大に大きく貢献しているところです。

 

映画「じんじん」もりあげ隊!応援ブログ

 

剣淵町絵本の館(絵本の里づくり活動拠点)

旧・絵本の館は、昭和19年(昭和42年に一部増築)に建設した旧役場を改修して、平成3年にオープンしましたが、老朽化が進んだことから、平成16年に現在の場所に新・絵本の館を新築しました。

 

やさしさとぬくもりを演出する絵本の館は、バリアフリーとユニバーサルデザインの考えを基にした平屋建てで、授乳室や多目的身障者トイレを設け、内部の仕様は木と土壁のぬくもりと温かさ、天井高による空間の広がり、開放的な窓からの自然彩光の利用に配慮しています。そして、建物全体は、上空から見ると楕円形のドーナツ型で、中庭を眺めながらぐるりと一周(約90メートル)することができるようになっています。靴をぬいでの入館になりますが、冬は床暖がぽかぽかで地べたに座ったり寝そべったり、お家に居る感覚でくつろげますし、絵本の部屋には世界の絵本が38,000冊あり、あかちゃんの絵本、むかし話、工作や動植物、のりものの絵本、仕掛け絵本、紙芝居、大型絵本、布絵本などコーナーごとに手に取りやすく背の低い書棚に配架しています。また、木のぬくもりとのふれあいは、木の玉10万個が入った「木の砂場」、おままごとのできる「ごっこハウス」のほか、いろいろな木製パズルもたくさん置いてあります。

また、平成25年8月には、講談社様から、全国各地を巡回し絵本の読み聞かせを行う「本と遊ぼう全国訪問おはなし隊」キャラバンカーを寄贈していただき、現在は様々なイベントで、野外の読み聞かせ等に活用させていただいています。

 

けんぶち町絵本の館 公式サイト

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